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「終身雇用守るの難しい」トヨタ社長発言から日本の雇用制度を振り返る

契約書を手渡す二人の男性の手

2019年5月13日、日本自動車工業会の記者会見で、本工業会の会長でありトヨタ自動車の社長である豊田章男氏が「終身雇用を維持するのは難しい局面に入ってきた」と発言したことは大きな話題を呼びました。

トヨタといえば日本を代表する企業。そのトヨタの社長が発言したわけですから、これはもはや株式会社日本の社長が発言したのと同じようなものです。彼が発言したことにとても大きな意味があるのです。

「働き方改革」が大きく取り沙汰される今日、この発言を機にこれから日本の雇用制度はどこへ向かうのでしょうか。日本の雇用制度を振り返ってみることにします。

独特な日本の雇用制度

日本には、年功序列の賃金制度や終身雇用、新卒一括採用といった雇用制度が存在しますが、こういった制度は決して世界標準ではありません。アメリカでは終身雇用なんてまずあり得ません。

こういった日本型雇用制度にメスをいれようという動きは今に始まったわけではなく、「終身雇用なんて時代遅れだ」「新卒一括採用はあり得ない」という議論はこれまでも行われてきました。

一概に間違った制度だというレッテルを貼るつもりはありませんが、時代も社会背景も大きく変化しています。

日本型雇用制度の特徴

日本型雇用制度の特徴について、年功序列の賃金制度、終身雇用、新卒一括採用という3つの制度について紹介します。

年功序列型の賃金制度

年功序列とは、勤続年数や年齢に応じて役職や給与が段階的に上昇していく人事制度であり、今でも多くの日本企業に根付いています。この制度は、「日本的経営の特徴」として1958年にはすでにアメリカの経済学者ジェイムズ・アベグレンによって彼の著書の中で紹介されています。

勤続年数・年齢を重ねるとともに、もらえる報酬も階段を上っていくようなイメージです。入社時は階段の下からスタートし、報酬を上げるためには経験を積み年齢を重ねなければいけません。新入社員がいきなり先輩の給与を上回る報酬を得ることはまずないですし、逆に30代40代の社員が20代の社員に給与を追い抜かれることは基本的にありません。

勤続年数や年齢が高くなれば、それだけスキルやノウハウが蓄積され、組織内における職務上の重要度が高まるとの考えに基づいています。

終身雇用

終身雇用とは、定年まで雇うことを前提とした雇用形態のことを言います。会社は、業績悪化によって倒産しない限りは従業員を定年まで雇用し続けなければならず、原則従業員の解雇ができません。終身雇用の下では、クビになるということが原則ないのです。

終身雇用制度というのは、あくまでも日本特有の雇用慣行であり、法令に基づいているわけではありません。正当な理由がなく企業が従業員を解雇することは原則できませんが、そうでない限りは解雇は可能です。しかし、慣習として深く根付いています。

対照的なのはアメリカで、成果主義のアメリカでは成果を上げられない人は問答無用でクビにされます。特に大企業では当たり前のことです。会社に貢献できない人に払うお金はないということで、そこに関しては非常にドライで義理人情はありません。アメリカは自己責任の文化なので、彼らはこのようにクビにされても「自分の力不足だった」と納得するのです。

新卒一括採用

新卒一括採用も日本型雇用制度のひとつです。企業が卒業予定の学生(新卒者)を対象に毎年同じタイミングで一括して求人し、在学中に採用試験を行って内定を出し、卒業後すぐに勤務させるという世界に類を見ない日本独特の雇用慣行です。

日本では、少なくとも戦後以降60年余りこの採用制度が活用され続けてきましたが、欧米ではこうした採用は行っていません。

日本型雇用制度の功罪

日本型雇用制度の良い所

解雇がないという安心感と将来設計のしやすさ

終身雇用と年功序列には、雇用に対する安心感と将来の生活設計のしやすさという利点があります。解雇されることがなく、給与についても自身の能力の有無にかかわらず経験と年齢を重ねるにつれて一定の額が保証されるのなら、10年後20年後に自分が会社の中でどのくらいのポジションにいてどのくらいの収入を得ているのかということが非常に想像しやすいです。

日本には、マイホーム文化があります。ほとんどの日本人が結婚すると35年ローンとかでマイホームを購入します。年功序列と終身雇用が生みだす安定感があるからこそ、人はマイホームを購入できるのでしょうし、また銀行も会社の正社員に対して35年ものローンを提供することができるのでしょう。

このマイホーム文化についても日本独特のものなのでいづれ別の記事で紹介したいと思います。

「平等性」に優れている

また、年功序列制度は「平等性」という点においても優れています。もしあなたが新卒で入社した会社の同期に東京大学出身がいたとしても、京都大学出身がいたとしても、3人の給料は変わりません。昇進などで給料に差がつきはじめるのはせいぜい10年ぐらいたってからでしょう。この「平等性」というものにより、社内に団結力が生まれるというメリットがあります。

効率のよさ

新卒一括採用では、企業側にとっては採用の手間とコストを削減しまとまった数の若者を効率よく獲得することができるというメリットがあり、学生側にとっては短期間の間に幅広い業種、多くの企業の方のお話を聞けるという利点があります。

日本型雇用制度の悪い所

優秀な人材のモチベーションが低下する

先にも述べたように、年功序列や新卒一括採用といったシステムは「平等性」という点においては非常に優れています。平等という言葉は耳障りがよく聞こえますが、みんながみんな並列というのは裏を返せば個人個人の多様性を認められていないということなのです。勘違いしている人が非常に多いと感じるのですが、「平等」であることと「公平」であることは全く違います。みんながみんな並列に扱われる平等の世界では、突出した才能を持ったものや能力を発揮できる優秀な人材でさえも、ほかのみんなと同様に扱われてしまうのです。

同じ会社で何年間の経験があろうと、時間に対するコミットメントの密度には個人差があるわけで、日頃から意識が高く仕事をしている人と、あたりさわりなくやり過ごしてお給料がもらえればいいなんて考えている人とでは、会社に対する貢献度には差が生まれます。

年功序列制度の弊害として、頑張ってもそれが報酬に反映されないなら頑張る価値がないというように、優秀な人材のモチベーションを低下させてしまう恐れがあります。逆に、頑張らなくても解雇されないし年齢と経験さえ重ねればある程度の報酬は保証されているのであれば、能力のない、成果を上げていない人材が蔓延る要因ともなるのです。

経済成長が終わった今、企業にうまみがない

年功序列が給与泥棒を生み出す要因となっているということは先に述べましたが、はっきりいって企業にうまみがまったくありません。人件費というものは会社の出費の中でも非常にインパクトの大きなコストです。優秀な人材が会社を発展させる原動力となる一方で、成果に見合わない給料を払うというのはとても大きなリスクなのです。

少し前の日本なら、供給が追い付いていなかったので、とにかく「いけいけどんどん」で生産しまくったわけです。そこにおいては、人材の質はあまり関係がなかったし、効率的に働くという意識もありませんでした。いくらでもオーダーが入るのでただただ成行で力任せに対応していればよかったのです。

しかし、経済成長が終わった今それもは過去の幻想です。現代は、成果を上げられない、効率的に仕事ができない人材にいつまでもお金を払う余裕は企業にないのです。

来たる新時代に備えた働き方とは

上記したような、年功序列・終身雇用・新卒一括採用といったこれまでの日本型の雇用制度ですが、さすがに変わろうという潮流がきています。トヨタ社長の発言もこのような時代の流れの表れでしょう。来たる新時代に備えた働き方とはなんでしょうか。

私はブログを書いています

これまでの日本型雇用制度では、わたしたちは会社に守られていました。一度入社すれば解雇されることはなく、成果を上げなくても段階的にお給料が上がっていく。冷静に考えれば夢のようですね。もう、経済成長をしていたころの過去の幻想にとらわれてはいけないです。

とはいえ、こういった雇用制度がいきなり急に消滅することはまずないと思います。そこで私は現在、サラリーマンをしながら副業としてブログを執筆しています。こうして自分の意識を高めるとともに、会社に頼らず自らが自立して働ける環境を少しづつでも作っています。

ネットが普及したいまでは個人が多くの人を相手にすることができる時代です。手段はブログだけではありませんが、会社だけに依存するという生き方は見直す必要があるのではないでしょうか。